企業の食料問題CSR事例集

大手食品メーカーによる畜産飼料原料の持続可能な調達基準策定と生産者協働事例:森林破壊ゼロとトレーサビリティへの挑戦

Tags: CSR, 食料問題, サプライチェーン, 持続可能な調達, 畜産飼料

はじめに

本稿では、畜肉製品や加工食品などを広く手掛ける大手食品メーカー、グローバルアグリフーズ株式会社(以下、同社)が推進する、畜産飼料原料の持続可能な調達に関するCSR事例をご紹介します。この事例は、直接的な食品原料だけでなく、その上流に位置する畜産飼料のサプライチェーンにおける環境・社会課題、特に森林破壊の回避とトレーサビリティ確立に焦点を当てた取り組みです。

食料問題への企業の貢献は多岐にわたりますが、最終製品の原材料だけでなく、その間接的な原料が持つ環境・社会への影響も無視できません。同社の取り組みは、複雑なサプライチェーン全体での責任を果たし、リスクを管理しながら持続可能性を追求する点で注目に値します。これは、貴社のような大手食品メーカーのCSR推進部門が、自社のサプライチェーンを包括的に見直し、新たな貢献策を模索する上で、重要な示唆を与えるものと考えられます。

取り組みの背景と目的

同社は、「地球と共に、おいしさを未来へ」という企業理念のもと、食に関わるあらゆる活動における持続可能性を追求しています。近年、消費者や投資家、NGOなどステークホルダーから、食品産業のサプライチェーンにおける森林破壊、人権問題、生物多様性の損失といった課題への対応が強く求められるようになりました。特に、畜産飼料の主要原料である大豆やトウモロコシの生産は、森林破壊の主な要因の一つと指摘されており、同社もその影響を無視できない状況でした。

このような背景から、同社は、自社製品に使用される畜産飼料原料に起因する環境・社会リスクを特定し、その影響を最小限に抑えることを経営戦略上の重要課題と位置づけました。このCSR活動の目的は、畜産飼料原料の調達において、森林破壊ゼロを達成すること、人権侵害を排除すること、そしてこれらの取り組みの透明性を高めるためのトレーサビリティシステムを構築することにあります。同時に、持続可能な生産手法を普及させることで、サプライチェーンのレジリエンス向上と生産者の経済的安定にも貢献することを目指しました。

具体的な活動内容と実行プロセス

同社の畜産飼料原料に関する持続可能な調達への取り組みは、以下の要素から構成されています。

  1. 持続可能な調達基準の策定:

    • 環境(森林破壊、土地利用転換、水資源、生物多様性)および社会(人権、労働条件、土地所有権、地域社会との関係)に関する厳格な基準を、国際的なガイドライン(例:Accountability Framework initiative - AFi)や業界のベストプラクティスを参照して策定しました。
    • 特に、森林破壊や泥炭地の新規開発と関連しない原料(Deforestation and Conversion Free - DCF)の調達を必須条件としました。
    • 児童労働や強制労働の排除、先住民族や地域社会の権利尊重に関する条項を含めました。
  2. サプライヤーエンゲージメントの強化:

    • 主要な畜産飼料原料サプライヤーに対し、策定した調達基準への準拠を求めました。
    • サプライヤーとの定期的な対話の場を設け、基準の理解促進、課題の共有、改善計画の策定を共同で行いました。
    • サプライヤーが基準を満たすための能力開発支援(研修、情報提供)も実施しました。
  3. トレーサビリティシステムの構築とモニタリング:

    • 調達した原料がどの地域、どの生産者から来ているかを特定するためのトレーサビリティシステムを構築しました。ブロックチェーン技術やGIS(地理情報システム)を活用し、畑地レベルまでの追跡を目指しました。
    • 衛星画像モニタリング技術を導入し、サプライチェーンに含まれる生産地域での森林破壊や土地利用転換が発生していないかを継続的に監視する体制を構築しました。
    • 第三者認証(例:RRSA - Round Table on Responsible Soyなど)の取得をサプライヤーに奨励し、その進捗を管理しました。
  4. 生産者との協働:

    • サプライヤーと連携し、持続可能な農業手法(例:土壌保全、適正な農薬・肥料管理、アグロフォレストリーなど)に関する技術支援やトレーニングを生産者向けに提供しました。
    • 持続可能な手法に転換した生産者に対し、長期契約やプレミアム価格での買取など、経済的なインセンティブを提供することを検討・実施しました。
  5. 外部パートナーとの連携:

    • 森林保護や人権問題に取り組む国際的なNGOとパートナーシップを結び、サプライチェーンのリスクアセスメントや現地でのプロジェクト実施において専門的な知見や協力を得ました。
    • 業界団体と協働し、持続可能な調達に向けた業界全体のベストプラクティスの共有や標準化にも貢献しました。

この活動は、企画段階で調達部門、CSR部門、法務部門が密接に連携し、経営層の承認を得て開始されました。実施段階では、調達部門がサプライヤーとの交渉やシステム導入を主導し、CSR部門が基準策定、外部パートナーとの連携、ステークホルダーへの情報開示を担当しました。モニタリングと評価は専門チームや外部機関が行う体制としました。

成果と効果測定

同社の取り組みにより、複数の成果が確認されています。

定量的な成果としては、主要な畜産飼料原料におけるトレーサビリティカバー率が、取り組み開始前の約40%から3年間で85%まで向上しました。DCF基準を満たす原料の調達比率は、特定の品目においては90%を超えています。また、衛星画像モニタリングにより、サプライチェーン内の生産地域における新規の森林破壊件数が前年比で30%減少したというデータが得られています。第三者認証取得面積も着実に増加しています。

定性的な成果としては、サプライヤーとの関係性が深まり、持続可能性に関する共通認識が醸成されました。生産者の間では、持続可能な農法への関心が高まり、一部地域では実践が進んでいます。NGOなどの外部ステークホルダーからは、同社の取り組み姿勢に対して一定の評価を得ています。社内的には、調達担当者の持続可能性に対する意識が大きく向上し、部門横断的な連携が進みました。また、これらの取り組みを情報開示することで、企業の評判向上にも寄与しています。

これらの成果は、トレーサビリティシステムからのデータ、衛星画像による分析報告、サプライヤーからの自己申告および第三者監査結果、NGOとの協議記録、社内アンケートなどを組み合わせた手法で測定・評価されています。目標設定に対する進捗は、CSRレポートやウェブサイトで定期的に開示されています。

直面した課題と克服策

この取り組みを進める上で、同社はいくつかの課題に直面しました。

最も大きな課題の一つは、サプライチェーンの複雑性とそれによる情報収集の難しさでした。畜産飼料原料は多段階の流通経路を経て調達されるため、一次生産者まで遡って情報を得ることは容易ではありませんでした。また、海外の小規模生産者の中には、技術や資金、情報アクセスが限られているため、持続可能な手法への転換や情報提供に難しさがある場合がありました。サプライヤーの中には、新たな基準への対応や情報開示に消極的な姿勢を示す企業もありました。さらに、トレーサビリティシステムの構築や衛星画像モニタリングには、相当なコストと専門知識が必要でした。

これらの課題に対して、同社は以下のような克服策を講じました。

成功の要因と学び

同社のこの事例が一定の成果を上げられた要因は複数考えられます。

第一に、経営層の強いコミットメントが挙げられます。サプライチェーンの持続可能性への取り組みを単なるCSR活動としてではなく、企業のレピュテーションリスク管理や事業継続計画の一部として位置づけ、経営戦略として推進したことが、社内外の関係者を動かす原動力となりました。

第二に、部門横断的かつ外部との連携体制です。複雑なサプライチェーン問題には、一つの部門だけでは対応できません。調達の専門知識、CSRの視点、技術的な知見、外部ネットワークを組み合わせることで、より効果的なアプローチが可能となりました。特に、専門知識を持つNGOや技術ベンダーとの協働は、課題克服において重要な役割を果たしました。

第三に、長期的な視点と継続的な改善プロセスです。サプライチェーンの抜本的な変革は一朝一夕には実現しません。同社は、初期段階での課題を認識しつつも、目標達成に向けたロードマップを設定し、焦らず着実に、そして継続的に改善を進める姿勢を貫きました。成果測定とフィードバックを次の改善に繋げるサイクルを確立しました。

この事例から得られる学びとしては、以下の点が挙げられます。複雑なサプライチェーンにおける間接的な環境・社会影響への対応は、単なるリスク管理に留まらず、企業の信頼性向上や将来的な事業基盤強化に繋がる重要な投資であること。そして、そのためには、バリューチェーン全体を可視化し、多様なステークホルダーとの連携を通じて、根気強く共創的なアプローチを進めることが不可欠であるということです。

他の企業への示唆・展望

同社の畜産飼料原料に関するCSR事例は、貴社のような大手食品メーカーにとって、食料問題への取り組みを検討する上で多くの示唆を与えます。まず、自社の直接的な原材料だけでなく、その製造に必要となる飼料や資材など、バリューチェーン全体にまで目を広げ、潜在的な環境・社会リスクを特定することの重要性を示しています。また、複雑なサプライチェーンにおいては、完璧なトレーサビリティや即時の課題解決は困難である現実を理解しつつ、技術の活用やパートナーシップを通じて、段階的にでも粘り強く改善を目指すアプローチが有効であることを示唆しています。サプライヤーや生産者を単なる取引先としてではなく、共に持続可能性を目指すパートナーとしてエンゲージすることの重要性も、この事例から学ぶべき点です。

同社は今後、この畜産飼料原料における取り組みで得た知見を活かし、対象となる原材料の種類を拡大していく計画です。また、サプライヤーや生産者向けの支援プログラムをより強化し、持続可能な生産手法のさらなる普及を目指すとともに、トレーサビリティシステムで収集したデータを活用し、リスク予測や早期介入の精度を高めることに注力していくとしています。さらに、業界全体での持続可能な調達慣行の確立に向け、他の企業や団体との連携を深めていく展望を持っています。

まとめ

グローバルアグリフーズ株式会社による畜産飼料原料の持続可能な調達に関するCSR事例は、食品メーカーが食料問題に取り組む上で、自社のバリューチェーン全体に対する深い理解と責任を持つことの重要性を明確に示しています。森林破壊ゼロ、人権尊重、トレーサビリティ確立といった高い目標を掲げ、複雑な課題に対し、調達基準の策定、サプライヤーエンゲージメント、技術活用、生産者協働、そして外部連携といった多角的なアプローチで取り組んでいます。一定の成果を上げつつも、その過程で直面した課題への対応は、同様の取り組みを目指す他の企業にとって貴重な学びとなります。

この事例は、持続可能な食料システムの構築が、単一企業の努力だけでは成しえない共創的な挑戦であることを改めて教えてくれます。貴社が今後のCSR活動や経営戦略を検討される上で、この事例が具体的なアクションやパートナーシップのヒントとなることを願っています。