企業の食料問題CSR事例集

生産者との共創が生む食品ロス削減：大手食品メーカーの技術支援・規格品外活用事例

はじめに

食品ロスは、世界的に喫緊の課題であり、その発生は消費段階のみならず、生産、加工、流通といったサプライチェーン全体に及んでいます。特に生産段階における食品ロスは、収穫前の病害虫被害や気候変動の影響、そして収穫後の品質基準外れなど、様々な要因によって生じます。本記事では、大手食品メーカーであるフューチャーアグリフード株式会社が、契約農家と連携し、技術支援と規格外品の活用を通じて生産段階の食品ロス削減に成功したCSR事例をご紹介します。

この事例は、単に余剰品を削減するだけでなく、生産者との強固なパートナーシップを築きながら、持続可能な農業生産とサプライチェーンの強化を目指す点で注目に値します。大手食品メーカーのCSR担当者様にとって、サプライチェーンの上流における具体的な介入策、その実行プロセス、成果、そして課題克服のヒントとして、深い示唆を得られる内容であると確信しております。

取り組みの背景と目的

フューチャーアグリフード株式会社は、「地球の恵みを未来へつなぐ」という企業理念のもと、持続可能な食料供給システムの構築を重要な経営課題の一つと位置付けています。近年、気候変動の進行による生産リスクの増大、そして消費者や投資家からのサプライチェーン全体の持続可能性への要求が高まる中、同社は自社のサプライチェーンにおける潜在的な食品ロス、特に生産段階でのロス率の高さに課題意識を持つようになりました。

一般的な農産物においては、栽培過程での病害虫や天候不順による被害、収穫・選果時の傷つき、そして流通基準や加工基準を満たさないサイズ・形状などが食品ロスに繋がります。これらのロスは生産者の収入減に直結すると同時に、生産に費やされた水や肥料、エネルギーといった資源の無駄遣いでもあります。

この状況を踏まえ、フューチャーアグリフード株式会社は、契約農家と協力し、生産段階での食品ロスを削減することを目的としたCSR活動を開始しました。具体的には、 1. 契約農家におけるロス発生率を技術支援により低減すること。 2. 規格外品となってしまう農産物を有効活用する仕組みを構築し、廃棄を削減すること。 3. これらの活動を通じて、生産者の経済的安定と持続可能な農業実践を支援すること。 を目指しました。これは、同社のサプライチェーン全体の効率化と環境負荷低減、そしてレジリエンス強化に繋がる戦略的な取り組みでもあります。

具体的な活動内容と実行プロセス

フューチャーアグリフード株式会社の生産段階食品ロス削減に向けた取り組みは、主に以下の二つの柱で構成されています。

1. 栽培・収穫・選果技術に関する契約農家への技術支援

同社は、長年培ってきた農産物の品質管理に関する知見と、外部の農業技術コンサルタントとの連携を活用し、契約農家向けにロス発生率を低減するための技術支援プログラムを開発・実施しました。

• プログラム内容:

  • 病害虫や病気への耐性が高く、気候変動にも比較的強い品種の導入推奨と、その栽培技術に関する情報提供。
  • 精密農業技術（土壌センサー、気象データ分析、生育モニタリングなど）を活用した最適な施肥・灌漑・病害虫防除に関する個別指導。
  • 圃場ごとの特性に応じた、品質を損なわずに収穫量を最大化するための収穫タイミングや方法に関する指導。
  • 選果基準の柔軟化に関する協議（例：流通過程での許容範囲の見直し）や、傷つきやすい農産物のための適切な選果・梱包方法に関する研修。

• 実行プロセス: まず、パイロット地域を選定し、数名の契約農家と密なコミュニケーションを取りながらプログラムを設計しました。次に、農業技術の専門家と調達担当者から成る専任チームを組成し、定期的に農場を訪問し、実地での指導や技術的な課題解決支援を行いました。農家からのフィードバックを収集し、プログラム内容は継続的に改善されました。

2. 規格外品の活用プログラム

品質や食味には問題がないものの、サイズ、形状、色などの理由で同社の定めた厳しい製品規格から外れてしまう「規格外品」の廃棄を削減するための取り組みです。

• プログラム内容:

  • 多角的な買取チャネルの確保: 契約農家から規格外品を、通常の製品とは異なる価格体系で買い取る仕組みを構築しました。これらの規格外品は、加工用原料（ジュース、ピューレ、冷凍食品など）として自社工場や提携する食品加工会社へ供給されました。また、一部は地域のフードバンクや子ども食堂への寄付、さらには従業員向けの社内販売など、多様なチャネルを通じて活用されました。
  • 規格外品を活用した新商品開発: 研究開発部門が中心となり、規格外品を主原料とした新しい加工食品や飲料を開発しました。これにより、新たな製品ラインナップを創出すると同時に、規格外品の安定的な需要を確保しました。
  • 情報システムの整備: 農家が規格外品の発生量や種類を報告しやすいシステムを構築し、同社が規格外品の発生を迅速に把握し、適切な活用チャネルへ振り分けるための情報管理を効率化しました。

• 実行プロセス: 調達部門が農家と買取価格や契約条件について合意形成を進めました。研究開発部門と生産部門は、規格外品を受け入れるための品質基準や加工方法を開発しました。営業部門は、規格外品を活用した新商品の販売戦略や、外部パートナーとの連携を推進しました。CSR部門は、フードバンク等への寄付に関するコーディネーションを担いました。社内各部門が連携するためのタスクフォースが設置され、定期的な進捗確認と課題共有が行われました。

成果と効果測定

これらの取り組みにより、フューチャーアグリフード株式会社は顕著な成果を上げています。

• 定量的な成果:

  • 技術支援を受けた対象地域における契約農家の平均食品ロス率が、プログラム導入前と比較して約15%削減されました。
  • 年間約500トンの規格外品が買い取られ、廃棄されることなく有効活用されました。
  • 規格外品買取プログラムに参加した農家の平均収益が約8%増加しました。
  • 削減された食品ロスと有効活用された規格外品によるCO2排出量削減効果は、年間約1,000トン（CO2換算）と試算されています。

• 定性的な成果:

  • 契約農家との信頼関係がより一層深まり、パートナーシップが強化されました。
  • 従業員の多くが本取り組みに誇りを持ち、社内のサステナビリティ意識が高まりました。
  • 規格外品を活用した新商品は、消費者からもポジティブな評価を得ています。
  • 地域社会からは、フードバンク等への継続的な支援や環境負荷低減への貢献に対して高い評価を得ています。

• 効果測定: ロス率の低減は、対象農家からの定期的な収穫量・廃棄量報告と、同社担当者による抜き打ちの現場調査に基づいて測定されました。規格外品の買取量は、同社の内部管理システムにより正確に把握されています。農家の収益増加率は、プログラム参加前後の農業所得に関するアンケート調査と、同社からの買取額データの分析によって算出されました。環境負荷低減効果は、削減された食品ロスの量や活用された規格外品の量に基づき、LCA（ライフサイクルアセスメント）手法を用いて外部機関が評価しました。

直面した課題と克服策

本取り組みの過程では、いくつかの課題にも直面しました。

• 課題1：農家ごとの技術レベルと慣習の違いへの対応

  • 多くの契約農家は長年の経験に基づく独自の栽培方法を持っており、新しい技術や方法論の導入には抵抗感がある場合がありました。また、個々の農家の技術レベルや経営状況も様々でした。
  • 克服策： 一律の指導ではなく、各農家の状況を丁寧にヒアリングし、個別の課題に合わせたカスタマイズされた技術支援計画を提案しました。成功事例を共有するワークショップを開催したり、先進的な取り組みを行っている農家を「モデル農家」として紹介したりすることで、新しい技術導入への前向きな機運を醸成しました。何よりも、一方的な「指導」ではなく、共に課題解決に取り組む「パートナー」としての姿勢を貫きました。

• 課題2：規格外品発生量の予測と活用チャネルの最適化

  • 天候などの影響により、規格外品の発生量は年によって大きく変動するため、安定的な活用チャネルの確保と、急な発生量増加への対応が課題となりました。
  • 克服策： 過去数年間の気象データや作柄データに基づき、発生量をある程度予測するモデルを構築し、事前に各活用チャネルとの受け入れ許容量や連携体制について調整を行いました。また、急な増加に対応できるよう、提携する加工会社との柔軟な契約や、複数のフードバンクとの連携ネットワークを構築しました。

• 課題3：社内関係部門間の連携促進

  • 調達、研究開発、生産、営業、CSRなど、多様な部門が関わるため、情報共有の遅れや優先順位の違いから連携がスムーズに進まない場面がありました。
  • 克服策： 本取り組みを会社の重要戦略の一つとして位置づけ、経営層が主導する形でクロスファンクショナルチームを設置しました。各部門の代表者が週に一度集まり、進捗状況、課題、ボトルネックについてオープンに議論し、迅速な意思決定を行える体制を構築しました。共通の目標を設定し、各部門の貢献を可視化することで、部門間の協力意識を高めました。

成功の要因と学び

このCSR事例が成功に至った主な要因は、以下の点にあると考えられます。

• 経営層の強いコミットメント: 本取り組みが単なるCSR活動に留まらず、持続可能なサプライチェーン構築という経営戦略に深く根ざしていたため、必要なリソースが確保され、社内の各部門を動かす推進力が生まれました。
• 契約農家との対話と信頼関係構築: 一方的な指示ではなく、農家の声に耳を傾け、共に課題を解決していくパートナーシップの姿勢が、農家の積極的な協力と技術導入への意欲を引き出しました。
• 多角的な視点と柔軟な対応: 生産段階のロス削減（予防）と規格外品の活用（発生後の対応）という両面からのアプローチに加え、技術支援、物流、加工、販売、寄付といった多様なチャネルを組み合わせることで、課題に対して多角的に対応できたことが成功に繋がりました。
• データに基づく効果測定と継続的改善: 成果を定量的に把握し、課題を明確にすることで、取り組みの効果を客観的に評価し、改善策を継続的に実行することが可能となりました。

この事例から得られる重要な学びは、サプライチェーン全体、特に上流における食品ロス削減は、関係者との密接な連携と信頼関係構築が不可欠であるという点です。また、規格外品は廃棄物ではなく、新たな価値を生み出す資源として捉え、創造的な活用方法を模索することが、環境負荷低減と経済性の両立に繋がる可能性があるという示唆も得られます。

他の企業への示唆・展望

フューチャーアグリフード株式会社の事例は、大手食品メーカーが食料問題、特にサプライチェーン上流の食品ロス削減に取り組む上で、多くの示唆を与えてくれます。

• サプライチェーンの現状把握: 自社のサプライチェーンにおいて、生産段階でどの程度のロスが発生しているか、その主要な要因は何であるかを改めて詳細に調査・分析することの重要性。
• 生産者との連携モデル: 契約農家や原料供給元との間で、単なる取引関係を超えた、技術支援や共同での課題解決を目指すパートナーシップモデル構築の可能性。
• 規格外品活用のビジネスチャンス: 規格外品を「捨てるもの」ではなく、新しい商品開発や新たな販路開拓に繋がるビジネスチャンスとして捉える視点。
• 部門横断的な取り組み: サプライチェーン全体に関わる課題であるため、調達、製造、研究開発、営業、物流、CSRなど、社内の複数の部門が連携する体制構築の必要性。

フューチャーアグリフード株式会社は今後、この取り組みの対象となる品目や地域をさらに拡大していくことを目指しています。また、IoTやAIなどの先端技術を活用した、より精緻な生産管理・ロス予測システムの導入や、規格外品を活用したアップサイクル製品の開発にも力を入れていく計画であり、持続可能な食料システムの実現に向けた挑戦は続きます。

まとめ

本記事では、フューチャーアグリフード株式会社による生産段階食品ロス削減に向けたCSR事例をご紹介しました。契約農家への技術支援と規格外品の多角的な活用という二つのアプローチを通じて、同社は食品ロスの削減、生産者の経済的安定、そして環境負荷の低減という複数の目標を達成しました。

この成功は、経営層の強力なリーダーシップのもと、生産者との信頼に基づいた協働、部門横断的な連携、そしてデータに基づいた効果測定と改善努力によって支えられています。この事例は、大手食品メーカーがサプライチェーン全体で食料問題に取り組む上で、生産者とのパートナーシップがいかに重要であるかを示唆しています。自社のサプライチェーンにおける食品ロス削減策を検討される際の、具体的な行動や戦略立案のための参考となれば幸いです。