企業の食料問題CSR事例集

イノベーティブ・バイオフーズ株式会社による製造副産物の微生物変換とアップサイクル事例:資源循環と高機能素材開発への挑戦

Tags: 食品ロス削減, 資源循環, アップサイクル, 微生物活用, 地域連携

はじめに

食料問題への企業の貢献は多岐にわたりますが、製造プロセスで発生する副産物や廃棄物を価値あるものへと変換する「アップサイクル」は、食品ロス削減、資源の有効活用、新たな経済価値創造を同時に実現する取り組みとして注目されています。本記事では、大手食品メーカーであるイノベーティブ・バイオフーズ株式会社が推進する、食品製造副産物を微生物技術を用いて高機能素材へと変換するCSR事例をご紹介します。この事例は、自社の技術的強みを活かしつつ、資源循環とビジネスの両立を図る先進的なアプローチであり、大手食品メーカーのCSR担当者様にとって、今後の食料問題への貢献策を検討する上で、重要な示唆を与えうるものと考えられます。

取り組みの背景と目的

イノベーティブ・バイオフーズ株式会社では、食品製造の過程で、栄養価は高いものの製品規格外となる原料や、搾りかすなどの副産物が継続的に発生していました。これらの副産物の大部分は、従来、産業廃棄物として処理されるか、比較的低価値な飼料・肥料原料として活用されていました。しかし、環境負荷低減への社会的要求の高まりや、資源の枯渇リスクが顕在化する中で、これらの副産物をより持続可能かつ高付加価値な形で活用することが喫緊の課題となっていました。

同社は、「自然の恵みを無駄なく活かし、健やかな食生活と地球環境に貢献する」という企業理念に基づき、この課題に対し、自社の強みである微生物発酵技術を応用することを決定しました。このCSR活動の主な目的は、以下の通りです。

具体的な活動内容と実行プロセス

イノベーティブ・バイオフーズ株式会社のこの取り組みは、「バイオコンバージョン・アップサイクルプロジェクト」と名付けられ、研究開発部門、製造部門、CSR部門、そして外部パートナーとの連携のもと推進されました。

  1. 副産物の特性分析と微生物選定: まず、社内で発生する主要な副産物の種類、量、組成、および物理化学的特性を詳細に分析しました。次に、これらの副産物を分解・変換し、特定の高機能成分(例:アミノ酸、機能性ペプチド、ビタミン、発酵由来の機能性物質など)を生成する能力を持つ微生物を、自社保有のライブラリや国内外の研究機関との共同研究を通じて探索・選定しました。複数の候補の中から、安全性、変換効率、培養の容易さ、スケールアップの可能性などを評価し、最適な微生物を選定しました。
  2. 変換プロセスの開発と最適化: 選定した微生物を用いて、副産物を基質とする培養条件(温度、pH、時間、栄養添加物など)をラボスケールで徹底的に検討しました。生成物の収率や品質を最大化するためのプロセスの最適化を行い、並行して安全性評価も実施しました。
  3. パイロットプラントでの実証: ラボでの知見をもとに、製造拠点内に小型のパイロットプラントを設置し、実際の製造ラインから発生する副産物を用いて実証試験を行いました。連続運転やスケールアップ時の課題を抽出し、プロセスの安定化と経済性の評価を行いました。この段階で、製造部門と密接に連携し、実際の副産物の安定供給体制や、プラントの運用ノウハウを蓄積しました。
  4. 高機能素材の評価と用途開発: パイロットプラントで製造された変換生成物(高機能素材)について、詳細な成分分析、栄養価評価、機能性評価(例:消化吸収性、免疫賦活効果など)を実施しました。これらの評価結果に基づき、開発した素材が飼料、肥料、あるいは食品原料としてどのように活用できるか、具体的な用途開発を進めました。この際、社内の知見だけでなく、飼料・肥料メーカーや研究機関、さらには農業関係者との意見交換を通じて、ニーズに合致した素材特性の調整や、新たな用途の探索を行いました。
  5. 外部連携と地域実装: 開発した高機能素材を、地域の飼料・肥料メーカーにサンプル提供し、実際の製品への配合試験や、契約農家での使用試験を共同で実施しました。地域のバイオマス関連事業者とも連携し、副産物の収集・運搬や、素材供給の物流最適化について協議を進めました。また、開発プロセスや素材の価値について、大学や研究機関と連携して科学的なエビデンスを積み上げ、情報発信を行いました。

組織内の連携としては、研究開発部門が技術開発の中心を担い、製造部門が副産物の供給とプラント運用、CSR部門がプロジェクト全体の推進、ステークホルダーとの連携、情報発信を担当しました。購買部門は資材調達を、営業部門は開発素材の販路開拓を検討するなど、多岐にわたる部門が協力しました。

成果と効果測定

本プロジェクトにより、イノベーティブ・バイオフーズ株式会社は、複数の顕著な成果を上げています。

定量的な成果としては、年間約1,500トンの食品製造副産物を廃棄物処理からアップサイクルへと転換することが可能となりました。これにより、従来の廃棄物処理にかかっていた年間約3,000万円のコスト削減に繋がっています。また、開発した高機能素材は、特定の飼料・肥料製品に採用され始め、年間約5,000万円の新たな売上機会を生み出しています。ライフサイクルアセスメント(LCA)による試算では、副産物のアップサイクルにより、従来の処理方法と比較して年間約500トンのCO2排出量削減効果が見込まれています。

定性的な成果としては、本プロジェクトを通じて、従業員の環境問題や資源循環に対する意識が大きく向上しました。また、地域の飼料・肥料メーカーや農家からは、高品質で安定供給可能な地域内資源として高く評価されており、新たな地域内連携が生まれています。メディアでも先進的なCSR事例として取り上げられる機会が増え、企業のブランドイメージ向上にも貢献しています。さらに、副産物の潜在的可能性に着目し、高度な技術で価値を創造するというアプローチは、研究開発部門における従業員のモチベーション向上や、新たな技術開発への意欲向上にも繋がっています。

これらの成果は、副産物発生量の継続的なモニタリング、廃棄物処理費用の算出、開発素材の生産量・販売実績の追跡、共同研究機関による科学的評価、LCAによる環境負荷評価、そして社内外へのアンケートやメディア露出状況の分析といった手法を用いて測定・評価されています。

直面した課題と克服策

本プロジェクトの推進においては、いくつかの課題に直面しました。

まず、技術的な課題として、微生物による副産物変換プロセスの安定化と、工業的なスケールでの効率的な運転の実現が挙げられました。特に、食品製造副産物はバッチごとに組成が変動する可能性があり、常に一定の品質で素材を生産することが困難でした。これに対し、同社はパイロットプラントでの実証期間を十分に確保し、様々な条件下での運転データを収集・分析することで、プロセス制御のノウハウを確立しました。また、複数の微生物株を併用したり、前処理方法を検討したりするなど、技術的な試行錯誤を重ねることで、品質の安定化を図りました。

次に、用途開発と販路開拓の課題がありました。開発した高機能素材は新しいものであるため、既存の製品にどのように配合するか、どのようなメリットがあるのかを、顧客である飼料・肥料メーカーや食品メーカーに理解してもらう必要がありました。これに対しては、開発素材の科学的エビデンスを共同研究機関と共に丁寧に提示し、顧客の製品開発担当者との緊密なコミュニケーションを通じて、具体的な応用方法や効果を検証する共同試験を積極的に提案・実施しました。また、ターゲット顧客のニーズに合わせた素材特性の微調整を行うなど、柔軟な対応を心がけました。

さらに、地域連携における調整の課題も発生しました。地域のバイオマス関連事業者や農家との間で、副産物の収集・運搬方法やコスト、開発素材の供給価格や供給量について、互いの利害を調整しながら合意形成を図る必要がありました。これに対しては、一方的な要望を伝えるのではなく、地域の資源循環システム全体における本プロジェクトの位置づけや、関係者それぞれのメリット(廃棄コスト削減、安定した地域内供給源の確保など)を丁寧に説明し、協議会を定期的に開催するなど、対話を重ねることで信頼関係を構築し、協力体制を築き上げました。

成功の要因と学び

このバイオコンバージョン・アップサイクルプロジェクトが成功に至った主な要因は、以下の点が挙げられます。

第一に、経営層の強力なコミットメントと長期的な視点です。目先のコスト削減だけでなく、資源循環型社会への貢献や将来の新たなビジネス機会創出を見据えた経営判断があったことが、研究開発への継続的な投資や、挑戦的なプロジェクト推進を可能にしました。

第二に、研究開発部門とCSR部門の緊密な連携です。高度な技術シーズを持つ研究開発部門が、社会課題解決というCSRの視点を取り入れることで、技術を社会実装に繋げる具体的なプロジェクトへと昇華させることができました。CSR部門は、社内外のステークホルダーとの橋渡し役となり、プロジェクトの意義や進捗を分かりやすく伝えることで、社内での理解促進や外部からの協力を得ることに貢献しました。

第三に、外部パートナーとの強力なパートナーシップです。特に大学や研究機関との共同研究は、高度な専門知識や客観的な評価を提供し、技術的な課題解決やエビデンス構築に不可欠でした。また、地域の事業者や農業関係者との連携は、開発した素材の社会実装や地域資源循環システムの構築において重要な役割を果たしました。

この事例から得られる学びは、自社のコア技術を、単なる製品開発だけでなく、社会課題解決のためのCSR活動に応用できる可能性を探ることの重要性です。また、技術開発段階から社会実装やビジネス化、そしてステークホルダーとの連携を包括的に視野に入れることの必要性を示唆しています。特に、食品製造における廃棄物や副産物を「捨てるもの」ではなく「活かすもの」と捉え直し、技術とアイデアで価値を創造するという視点は、多くの企業にとって参考になるでしょう。

他の企業への示唆・展望

イノベーティブ・バイオフーズ株式会社の事例は、大手食品メーカーが自社の技術力や製造基盤を活かして、食品廃棄物・副産物という古くて新しい食料問題に対し、革新的かつ持続可能なソリューションを提供できることを示しています。読者であるCSR担当者様にとっては、自社で発生する未利用資源の可能性を再評価し、研究開発部門や製造部門と連携して、アップサイクルやバイオコンバージョンといった技術的なアプローチを検討するきっかけとなるかもしれません。

また、この事例は、地域内での資源循環システム構築に企業が積極的に関与することの重要性も示唆しています。単に製品を製造・販売するだけでなく、原材料の調達から製造、そして副産物の活用に至るまで、地域社会との連携を強化することで、よりレジリエントで持続可能な食料システム構築に貢献できる可能性が広がります。

イノベーティブ・バイオフーズ株式会社では、今後、開発した高機能素材の用途をさらに拡大し、新たな市場(例:健康食品、化粧品原料、バイオプラスチック原料など)への展開を目指すとともに、このバイオコンバージョン技術を他の製造拠点や、将来的にはサプライヤーにも展開することを検討しています。これにより、より広範な食品産業全体における資源循環の促進に貢献することを目指しています。

まとめ

本記事では、イノベーティブ・バイオフーズ株式会社による、食品製造副産物の微生物変換とアップサイクルを通じた資源循環および高機能素材開発のCSR事例をご紹介しました。この取り組みは、自社の技術的強みを活かし、廃棄物の削減、コスト削減、新たな経済価値の創出、そして地域連携による資源循環システムの構築といった多角的な成果を上げています。

イノベーティブ・バイオフーズ株式会社の事例は、食品製造における未利用資源の潜在的な価値を顕在化させ、技術革新とステークホルダー連携を組み合わせることで、食料問題解決とビジネス機会創出を両立できることを明確に示しています。この事例から得られる学びは、自社の事業特性や技術力をCSR活動にどのように結びつけるか、そしてより広範な社会システムの中に自社の活動をどのように位置づけるかを考える上で、貴重な示唆を提供してくれるでしょう。