大手食品メーカーによる水産資源の持続可能性確保への貢献:認証取得推進とサプライヤー協働事例
はじめに
本記事では、大手食品メーカーである海山フーズ株式会社が進める、水産資源の持続可能性確保に関するCSR事例をご紹介します。水産資源の枯渇は地球規模の深刻な食料問題であり、水産物を主要な原材料とする食品メーカーにとって、持続可能な調達体制の構築は喫緊の課題です。海山フーズ株式会社の取り組みは、国際的な水産エコラベル認証の活用、サプライヤーとの緊密な協働、先進技術の導入など、多角的なアプローチを通じてこの課題に挑んでおり、他の食品メーカーが持続可能なサプライチェーンを構築する上で多くの示唆を提供するものです。
取り組みの背景と目的
世界的に水産資源は減少の一途をたどり、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の問題や海洋環境への負荷も深刻化しています。海山フーズ株式会社は、企業理念に「豊かな食を未来に繋ぐ」ことを掲げており、将来にわたって安全で高品質な水産物を安定的に供給し続けるためには、サプライチェーンの根幹である水産資源そのものの持続可能性が不可欠であるという認識に至りました。
このような背景から、同社は持続可能な水産物調達に関する明確なポリシーを策定しました。このCSR活動の主な目的は、以下の点に集約されます。
- 主要な調達先における水産資源の枯渇リスク低減
- 海洋生態系への負荷を最小限に抑える漁業・養殖業の推進
- 透明性が高く、責任あるサプライチェーンの構築
- 持続可能な水産物に対する消費者およびステークホルダーの認知向上と啓発
- 企業価値の向上と事業継続性の強化
具体的な活動内容と実行プロセス
海山フーズ株式会社の水産資源持続可能性確保に向けた取り組みは、多岐にわたります。
主要な活動の一つは、海洋管理協議会(MSC)認証および水産養殖管理協議会(ASC)認証を取得した水産物への調達転換推進です。同社はまず、調達量の多い主要魚種・養殖品種から優先的に認証水産物への切り替え目標を設定しました。
この目標達成のため、調達部門が中心となり、サプライヤーである国内外の漁業会社や養殖業者に対し、認証取得に向けた技術的・資金的支援プログラムを提供しています。認証取得に関するワークショップの開催、専門家によるアドバイス、必要に応じた初期費用の補助などが含まれます。また、認証取得が困難なサプライヤーに対しては、漁業改善プロジェクト(FIP: Fishery Improvement Project)や養殖改善プロジェクト(AIP: Aquaculture Improvement Project)への参加を促し、持続可能性向上に向けた段階的な取り組みを支援しています。
さらに、サプライチェーンの透明性向上とIUU漁業対策として、ブロックチェーン技術を用いたトレーサビリティシステムの導入を進めています。これにより、漁獲・水揚げから加工、流通を経て小売・消費者に届くまでの全過程を追跡可能にし、情報へのアクセスを可能にすることで、責任ある調達を担保しています。
社内外への啓発活動も重要な要素です。商品パッケージにMSC/ASC認証マークを積極的に表示するとともに、自社ウェブサイトで持続可能な水産物に関する情報や認証の意義について分かりやすく解説しています。従業員向けには、定期的な研修や勉強会を実施し、全社的な意識向上を図っています。
これらの活動は、CSR推進部門が全体の戦略立案と外部連携を担い、調達部門がサプライヤーとの協働とシステム導入、マーケティング部門が消費者啓発、広報部門が情報発信を担当するなど、社内の多様な部署が連携して実行されています。外部パートナーとしては、MSC日本事務所、ASCジャパン、様々なNGO/NPO、漁業協同組合、研究機関などと緊密に連携しています。
成果と効果測定
海山フーズ株式会社の取り組みにより、複数の具体的な成果が見られています。
定量的な成果としては、例えば、認証取得対象商品のうち、MSC/ASC認証水産物への切り替えが完了した割合が、取り組み開始から3年間でXX%増加しました(例:20%→50%)。また、認証水産物の総調達量もYYトン増加し(例:10,000トン→15,000トン)、持続可能な調達の規模が拡大しています。トレーサビリティシステム導入により、主要魚種におけるサプライチェーン情報の可視化率がZZ%に達しました(例:30%→90%)。
定性的な成果としては、サプライヤーの持続可能性に対する意識と取り組み意欲が明らかに向上しています。共同でFIPに参加するサプライヤーの数も増加傾向にあります。消費者からは、認証マーク付き商品に対する肯定的な評価や、「海山フーズは環境に配慮している企業だ」といったブランドイメージ向上に繋がる意見が寄せられるようになりました(例:消費者調査でブランドイメージスコアが5ポイント上昇)。社内においても、従業員のエンゲージメントが高まり、部署横断での連携がスムーズになったという効果も認められます。
これらの成果測定は、定期的なサプライヤーからの報告、認証機関による監査結果、社内の調達データ分析、消費者アンケート調査、ウェブサイトへのアクセス解析など、複数の手法を組み合わせて行われています。特に、サプライヤーのFIP/AIP進捗状況やトレーサビリティデータのモニタリングは、取り組みの効果を継続的に評価する上で重要な指標となっています。
直面した課題と克服策
この取り組みを進める上で、いくつかの課題に直面しました。
一つ目の大きな課題は、認証取得にかかるコスト負担と、特に小規模な漁業・養殖業者からの協力体制の構築です。認証取得には一定の費用と手間がかかるため、全てのサプライヤーが容易に対応できるわけではありませんでした。これに対し、同社はサプライヤー向け支援プログラムを拡充し、認証コンサルタント費用の補助や、既存の取引量に応じたインセンティブ設定などを行いました。また、個別のサプライヤーと継続的に対話の場を持ち、認証の意義や長期的なメリットについて丁寧に説明することで、理解と協力を求めていきました。
二つ目の課題は、複雑な国際サプライチェーンにおける、徹底したトレーサビリティの確保でした。特に複数の仲介業者を経由する場合や、遠洋漁業などでは、情報の正確性や追跡が困難なケースがありました。この克服策として、ブロックチェーン技術の導入に加え、漁獲証明制度の遵守徹底や、主要な漁獲港・集積地での現地調査を強化しました。また、IUU漁業のリスクが高い地域からの調達については、NGOや国際機関が公開している情報と照らし合わせながら、より厳格なデューデリジェンスを実施する体制を構築しました。
成功の要因と学び
海山フーズ株式会社のこのCSR事例が一定の成功を収めている要因は複数考えられます。
最も重要な要因の一つは、経営層の強いコミットメントです。水産資源の持続可能性を単なる環境問題としてだけでなく、企業の存続に関わる重要な経営課題と位置付け、長期的な視点に立ってリソースを投下することを決定したことが、活動の推進力となりました。
また、CSR推進部門だけでなく、調達、マーケティング、広報など、関連する複数の部門が目標を共有し、緊密に連携して活動を進めたことも成功に不可欠でした。特にサプライヤーとの関係構築においては、調達部門が持つ現場の知見と、CSR部門が持つ専門性や外部ネットワークが効果的に組み合わされました。
サプライヤーやNGO、漁業団体など、外部の多様なステークホルダーと積極的に対話し、協力関係を構築したことも大きな要因です。特にサプライヤーに対して一方的な要求を行うのではなく、共に課題解決に取り組むパートナーとして接したことが、信頼関係の構築に繋がり、活動の実効性を高めました。
この事例から得られる学びとしては、第一に、サプライチェーン全体の持続可能性を追求するには、自社だけでなく関係者全てを巻き込む「共創」のアプローチが不可欠であるということです。第二に、認証制度は強力なツールですが、それを最大限に活かすためには、技術的な支援や情報提供、継続的な対話といった、認証以外の多角的な支援が重要であるという点です。最後に、トレーサビリティシステムの導入は効果的ですが、その運用には現場の情報を正確に把握し、検証する体制が伴って初めて実効性が高まるということです。
他の企業への示唆・展望
海山フーズ株式会社の水産資源持続可能性確保への取り組みは、他の大手食品メーカー、特に水産物を取り扱う企業にとって、具体的なベンチマークとなりうる事例です。持続可能な調達方針の策定、国際認証の活用、サプライヤー連携の具体的手法、トレーサビリティシステムの導入といった側面は、自社のCSR活動や事業戦略を検討する上で大いに参考になるでしょう。特に、サプライヤーへの支援プログラムや、部門横断的な連携体制の構築は、他社でも応用可能なアイデアです。
今後の展望として、海山フーズ株式会社は、認証水産物の調達比率をさらに高めることを目標としています。また、認証取得が難しい小規模漁業や養殖業に対する支援を継続・強化し、FIP/AIPの成功事例を増やすことにも注力する予定です。加えて、漁業コミュニティの社会経済的な持続可能性や、海洋プラスチック汚染といった、水産に関連する他の社会課題への取り組みとの連携も視野に入れています。
まとめ
海山フーズ株式会社による水産資源の持続可能性確保に向けたCSR事例は、グローバルな食料問題である資源枯渇に対し、食品メーカーが果たすべき責任と具体的な行動を示すものです。MSC/ASC認証の活用、サプライヤーとの積極的な協働、ブロックチェーン技術によるトレーサビリティ構築など、包括的なアプローチを通じて、持続可能な調達体制を着実に強化しています。この事例は、経営層の強い意思、関係部署間の連携、そして多様なステークホルダーとの共創がいかに重要であるかを示しており、他の企業が食料問題に関するCSR活動を推進する上で、実践的な学びと重要な示唆を提供するものです。