商品の工夫と啓発で挑む、大手食品メーカーの消費段階食品ロス削減事例
はじめに
本稿では、大手食品メーカーである株式会社ヘルシーライフが取り組む、家庭での食品ロス削減に向けたCSR事例をご紹介します。これは、製造・流通段階の取り組みとは異なり、消費者との直接的な接点を通じて社会課題の解決を目指す点に特徴があります。
食品ロスは、世界の食料生産量の約3分の1が食べられることなく廃棄されているとも言われる深刻な問題です。特に先進国においては、家庭からの食品ロスが大きな割合を占めており、その削減には消費者一人ひとりの意識と行動変容が不可欠です。
株式会社ヘルシーライフのこの事例は、食品メーカーが持つ商品開発力や情報発信力を活かし、消費者の行動変容を促す具体的なアプローチを示しています。自社の事業特性を最大限に活用したCSR活動として、読者の皆様、特に大手食品メーカーのCSR推進部門で活動されている方々にとって、新たな取り組みを検討する上で重要な示唆となり得ると考えられます。
取り組みの背景と目的
株式会社ヘルシーライフは、「健やかな食生活を通じて、人々の幸福と持続可能な社会に貢献する」という企業理念を掲げています。この理念に基づき、長年にわたり安全・安心な食品の提供に取り組んできました。近年、世界の食料問題、特に食品ロスが地球環境や資源に与える負荷の大きさが広く認識されるにつれて、企業としての責任と貢献のあり方が改めて問われるようになりました。
同社では、製造・流通段階での食品ロス削減に加えて、自社の商品が最終的に消費される家庭段階での食品ロスにも、事業を通じて積極的に貢献できないかという議論が進みました。特に、自社製品の多くが日々の食卓に並ぶものであることから、消費者の食品ロス削減行動を後押しすることが、企業理念の実践に繋がると判断しました。
本取り組みの具体的な目的は、以下の2点です。 1. 自社商品の設計や情報提供を工夫することで、家庭での食品ロス発生量を削減すること。 2. 消費者の食品ロス問題に対する意識を高め、持続可能な消費行動を促進すること。
これらの目的達成を通じて、社会全体の食品ロス削減に貢献すると同時に、企業ブランドの価値向上、顧客エンゲージメントの強化、そして新たなビジネス機会の創出にも繋がることを目指しました。
具体的な活動内容と実行プロセス
株式会社ヘルシーライフが取り組んだ「賢く使いきる!家庭での食品ロス削減プロジェクト」は、主に以下の3つの柱で構成されています。
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商品設計における工夫:
- 使い切り容量パックの開発: 少人数世帯や単身者の増加に対応し、これまでの標準容量に加え、使い切りやすい小容量パックのラインナップを拡充しました。特に、傷みやすい加工食品や調味料などから優先的に導入を進めました。
- 保存性の高いパッケージング: 開封後も湿気にくく、品質が劣化しにくいチャック付きパッケージや、酸化を防ぐ個包装技術を積極的に採用しました。これにより、消費者が開封後も商品を無駄なく使い切れるように配慮しました。
- 賞味期限表示の見直し: 賞味期限が「年月」表示のみであった一部商品について、「年月日」表示への切り替えを進め、消費者がより正確に期限を把握しやすくなるように変更しました。また、賞味期限と消費期限の違いに関する分かりやすい説明をパッケージに掲載しました。
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消費者向け情報提供と啓発活動:
- ウェブサイト「賢く使いきるキッチン」の開設: 食材を無駄なく使い切るためのレシピ、食材の適切な保存方法、食品ロスに関する基礎知識や削減のコツなどを掲載した特設ウェブサイトを立ち上げました。サイト内では、特に自社製品を活用した使い切りレシピを豊富に紹介しました。
- SNSを活用した情報発信とキャンペーン: 公式SNSアカウントを通じて、ウェブサイトのコンテンツへの誘導に加え、食品ロス削減に関する豆知識や役立つ情報を継続的に発信しました。また、「#使い切りチャレンジ」といったハッシュタグを用いたレシピ投稿キャンペーンを実施し、消費者間の情報共有や行動促進を図りました。
- 店頭プロモーション: 小売店と連携し、食品ロス削減をテーマにしたリーフレットの配布や、使い切りレシピの提案コーナーを設置しました。試食会と合わせて、食材の賢い使い方を啓発する活動も行いました。
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社内体制と外部連携:
- 本プロジェクトの企画・推進には、CSR推進部門が主導し、商品開発部、マーケティング部、研究開発部が密接に連携しました。商品設計に関するアイデアは商品開発部と研究開発部が担当し、情報提供やキャンペーン企画はマーケティング部が中心となって実行しました。
- 外部パートナーとしては、料理研究家や食品ロス削減に取り組むNPO法人と連携しました。料理研究家からは実践的な使い切りレシピや保存方法のアドバイスを得てウェブサイトコンテンツに反映させ、NPO法人からは食品ロス問題に関する専門的な知見や啓発活動のノウハウを学びました。
これらの活動は、まず一部の製品カテゴリを対象に試験的に開始し、成果を検証しながら対象範囲を拡大していく段階的なプロセスで実行されました。
成果と効果測定
本プロジェクトの実施により、いくつかの具体的な成果が得られました。
定量的な成果としては、以下の点が挙げられます。(架空の数値に基づきます) * 特設ウェブサイト「賢く使いきるキッチン」の月間平均アクセス数は、開設から1年で約5万UUを達成しました。特に使い切りレシピや保存方法に関するページへのアクセスが多く見られました。 * SNSキャンペーン「#使い切りチャレンジ」には、期間中に約3,000件のレシピ投稿がありました。 * 小容量パックの対象商品における出荷量は、プロジェクト開始から1年間で平均約15%増加しました。同時に、従来の標準容量パックの出荷量は大きな変化がなく、新たな需要を掘り起こした可能性が示唆されています。 * プロジェクト対象商品の購入者を対象に行ったアンケート調査(回答者数:約1,000名)では、「この商品の容量(パッケージ)は食品ロス削減に役立つと思うか」という問いに対し、約70%が「そう思う」または「ややそう思う」と回答しました。
定性的な成果としては、以下の点が確認されています。 * 消費者からは、「使い切りレシピが参考になる」「小容量パックがあると無駄なく使える」「食品ロスについて考えるようになった」といったポジティブな声が多く寄せられました。 * 社内においては、食品ロス問題に対する従業員の意識が向上し、部署を横断した連携の重要性が再認識されました。 * メディア露出も増加し、企業のCSR活動として注目される機会が増えました。これにより、企業イメージの向上に繋がったと考えられます。
これらの成果は、ウェブサイトのアクセス解析、SNSのエンゲージメント測定、販売データ分析、消費者アンケート、メディア露出件数といった指標を用いて多角的に評価・測定されました。
直面した課題と克服策
本プロジェクトの推進においては、いくつかの課題に直面しました。
- 社内連携体制の構築: 商品開発、マーケティング、研究開発、CSRといった複数の部門が連携する必要がありましたが、初期段階では部門間の目標設定や役割分担の調整に時間を要しました。定期的な合同会議や情報共有ツールの活用を徹底することで、部門間の壁を低減し、共通認識を醸成していきました。
- 消費者行動変容の難しさ: 情報提供やキャンペーンだけでは、全ての消費者の行動変容を促すことは困難であるという課題に直面しました。表面的な情報提供に留まらず、なぜ食品ロスを削減することが大切なのか、具体的な行動によってどのようなメリットがあるのか(節約効果など)といった点を、より分かりやすく、継続的に伝える工夫が必要であると認識しました。
- 効果測定の複雑さ: 家庭での食品ロス削減量を直接的に測定することは非常に困難です。そのため、アクセス数やアンケート結果などの間接的な指標に頼らざるを得ませんでした。これらの間接指標から、プロジェクトがどの程度消費者の意識や行動に影響を与えているのかを推測し、活動内容の改善に繋げるPDCAサイクルを回すことに注力しました。
- コストとの両立: 小容量パックの開発や特殊なパッケージの採用は、従来の製品と比較して製造コストが増加する可能性がありました。初期段階では採算性の検証も行い、消費者のニーズとコスト増のバランスを見極めながら、対象品目の選定や価格設定を慎重に行いました。
これらの課題に対し、経営層からの継続的なサポートと、関係部門の粘り強い連携、そして外部パートナーからの専門知識の活用が、克服の鍵となりました。
成功の要因と学び
本事例が一定の成果を上げることができた主な要因は、以下の点が考えられます。
- 経営層の強いコミットメント: 食品ロス削減が企業の重要課題として経営層に認識され、プロジェクト推進に必要なリソースが確保されたことが、活動の継続と拡大を可能にしました。
- 自社の強みを活かしたアプローチ: 食品メーカーとしての核心事業である「商品」と「情報発信」を結びつけたアプローチが、消費者にとって受け入れやすく、実践に繋がりやすかったと考えられます。
- 多角的な視点での連携: 社内複数の部門と、外部の専門家(料理研究家、NPO)が連携することで、専門的かつ実践的なコンテンツやアイデアを生み出すことができました。
- 消費者インサイトの重視: 消費者アンケートやSNSでの反応などを分析し、消費者がどのような情報やサポートを求めているのかを継続的に把握しようとした姿勢が、活動内容の改善に繋がりました。
この事例から得られる学びとしては、食品問題のような複雑な社会課題に対しては、単なる資金提供や寄付だけでなく、自社の事業活動そのものの中に課題解決の視点を組み込むこと(Creating Shared Value - CSVの考え方にも通じます)の重要性が挙げられます。また、消費者の行動変容を促すためには、単発的なキャンペーンではなく、商品、情報、コミュニケーションを組み合わせた継続的なアプローチが必要であること、そして効果測定は困難でも、可能な限り多角的な視点で行い、改善に繋げる努力が不可欠であるという点も重要な示唆です。
他の企業への示唆・展望
株式会社ヘルシーライフの事例は、他の大手食品メーカーが家庭での食品ロス削減に取り組む上で、いくつかの重要な示唆を与えています。
- 商品開発部門とCSR部門の連携強化: CSR推進部門が社会課題の専門知識を提供し、商品開発部門がその課題解決に貢献できる製品を企画・開発するという連携モデルは、多くの食品メーカーに応用可能です。
- デジタルチャネルの活用: ウェブサイトやSNSは、広範な消費者に食品ロス削減に関する情報を届け、エンゲージメントを深めるための有効なツールです。レシピや保存方法といった、消費者の日々の食卓に役立つ情報提供は特に効果的でしょう。
- 外部パートナーシップの重要性: 料理研究家やNPOなど、消費者への影響力や専門知識を持つ外部組織との連携は、活動の質とリーチを高める上で非常に有効です。
株式会社ヘルシーライフは、今後もこのプロジェクトを継続・拡大していく計画です。具体的には、IoT技術を活用したスマート冷蔵庫連携による食材管理支援サービスの開発や、他の食品メーカーや小売店と連携した業界全体の食品ロス削減に向けた共同キャンペーンの実施などを展望しています。
まとめ
本稿では、株式会社ヘルシーライフによる家庭での食品ロス削減を目的としたCSR事例をご紹介しました。商品の工夫、消費者への情報提供と啓発活動を組み合わせたこの取り組みは、企業の事業特性を活かしながら社会課題解決に貢献する有効なアプローチです。
社内連携や消費者行動変容といった課題は存在したものの、経営層のコミットメント、多角的な連携、そして継続的な改善努力によって、一定の成果を上げています。
この事例は、食品メーカーが消費者の最も身近な課題の一つである「家庭での食品ロス」に対して、どのように貢献できるのかを示唆しています。読者の皆様が、自社のCSR活動を検討・推進される上で、本事例から新たなアイデアやヒントを得られることを願っております。