企業の食料問題CSR事例集

持続可能な食料供給に向けたエネルギー戦略：大手食品メーカー大地フード株式会社によるサプライチェーン全体の再生可能エネルギー導入と効率化事例

Tags: サプライチェーン, エネルギー効率, 再生可能エネルギー, 環境負荷低減, 気候変動対策

はじめに

本記事では、大手食品メーカーである大地フード株式会社が進める、食料サプライチェーン全体でのエネルギー効率改善および再生可能エネルギー導入に関するCSR事例をご紹介いたします。この取り組みは、気候変動対策が喫緊の課題となる現代において、企業の事業活動と社会課題解決を統合する重要なアプローチを示しています。

サプライチェーンにおけるエネルギー消費は、製造・物流・原材料生産など多岐にわたり、GHG排出量の大部分を占めるケースが少なくありません。大地フード株式会社の事例は、単なる省エネ活動に留まらず、再生可能エネルギーの活用を組み合わせることで、環境負荷の低減、エネルギーコストの最適化、さらには事業継続性の向上という複合的な成果を目指している点が注目に値します。

食品メーカーのCSR推進部門のご担当者様にとって、この事例は、自社のサプライチェーンにおけるエネルギー戦略を検討する上で、具体的な活動内容、推進プロセス、成果、課題、そして成功への示唆を得るための貴重な情報となるでしょう。

取り組みの背景と目的

大地フード株式会社がこのエネルギー戦略を強化した背景には、複数の要因が存在します。一つ目は、国際的な気候変動対策への高まりです。パリ協定やSBT（Science Based Targets）のような目標設定への賛同圧力が強まる中で、自社のGHG排出量削減目標達成に向けた具体的な施策が不可欠となりました。特に、食品産業のGHG排出量の多くがサプライチェーン上流・下流（スコープ3）に存在する点を踏まえ、自社拠点だけでなく、サプライチェーン全体のエネルギー効率化が重要な課題として認識されました。

二つ目は、エネルギーコストの変動リスク増大です。国際情勢や資源価格の不安定化により、エネルギー調達コストの上昇が経営リスクとなりつつありました。再生可能エネルギーの活用は、長期的な視点でのコスト安定化に繋がる可能性を秘めています。

三つ目は、ステークホルダーからの期待です。消費者、投資家、従業員、そして地域社会から、企業活動の環境負荷低減に対する期待が高まっています。特に、持続可能な食料システムの構築に向けた企業姿勢が問われる中で、エネルギー戦略は重要なアピールポイントとなります。

これらの背景から、大地フード株式会社は、このCSR活動の目的を以下の通り明確に設定しました。

これらの目的は、同社の企業理念である「豊かな食を通じて、持続可能な社会の実現に貢献する」という考え方に深く根差しています。

具体的な活動内容と実行プロセス

大地フード株式会社のエネルギー戦略は、多岐にわたる具体的な活動内容と、それを推進するための組織的プロセスによって特徴づけられます。

具体的な活動内容

  1. 自社拠点（製造工場、物流センター等）におけるエネルギー効率改善:

    • 老朽化した高エネルギー消費設備の計画的な更新（例：最新型ボイラー、高効率モーター、インバーター制御システムの導入）。
    • 製造プロセスの見直しと最適化によるエネルギー使用量の削減。
    • 徹底した断熱改修やLED照明への切り替え。
    • エネルギーマネジメントシステム（EMS）の導入によるリアルタイムでのエネルギー使用量監視と異常検知、最適制御。

  2. 自社拠点における再生可能エネルギーの導入:

    • 工場や物流センターの屋上スペースを活用した自家消費型太陽光発電設備の設置。
    • 電力購入契約（PPA: Power Purchase Agreement）を通じた敷地外からの再生可能エネルギー電力調達。
    • 再生可能エネルギー由来の非化石証書等の購入。
    • 将来的には、バイオマス発電や地熱利用などの可能性も検討。

  3. 物流におけるエネルギー効率化と再生可能エネルギー活用:

    • 輸送モードの最適化（モーダルシフト推進：トラック輸送から鉄道・船舶輸送への転換）。
    • 共同配送や輸配送ルートの見直しによる積載率向上と走行距離削減。
    • ハイブリッド車やEVトラックの試験導入および段階的な拡大。
    • 物流センターにおける再生可能エネルギー由来の電力利用拡大。

  4. サプライヤーとの連携によるサプライチェーン全体のエネルギー効率化・脱炭素化:

    • 主要なサプライヤーに対して、GHG排出量算定方法に関する情報提供やトレーニングを実施。
    • サプライヤー向けの省エネ診断支援プログラムを提供。
    • 再生可能エネルギー導入を検討するサプライヤーに対し、情報提供や導入事例の共有、金融機関の紹介等でサポート。
    • 持続可能な調達基準に、エネルギー効率や再生可能エネルギー利用に関する項目を盛り込む。

実行プロセス

この戦略は、全社横断的なプロジェクトチーム「サプライチェーン脱炭素化推進本部」を中心に推進されました。

成果と効果測定

大地フード株式会社の取り組みは、着実に成果を上げています。

定量的成果

定性的な影響

測定・評価手法

成果の測定には、国際的な基準であるGHGプロトコルに基づいた排出量算定を核としています。自社拠点については、EMSデータや請求書に基づいて正確なエネルギー使用量を把握し、排出係数を適用して排出量を算出しています。スコープ3排出量については、サプライヤーからのデータ収集、業界平均値、ライフサイクルアセスメント（LCA）ツールなどを活用して推計しています。これらのデータは、第三者機関による検証を受け、透明性を確保しています。また、エネルギー原単位、再生可能エネルギー比率、投資回収期間などのKPIを設定し、定期的に進捗をモニタリングしています。

直面した課題と克服策

本取り組みを進める上で、いくつかの困難や課題に直面しました。

一つ目の課題は、初期投資の大きさです。高効率設備への更新や再生可能エネルギー設備の導入には、多額の初期投資が必要となります。これに対し、経営層に対して長期的な視点でのコスト削減効果、リスク回避（エネルギー価格変動リスク、気候変動関連リスク）、そして企業価値向上といった投資対効果を定量的に提示し、理解と承認を得ることに注力しました。また、補助金制度や税制優遇、PPA契約など、初期投資を抑えるための多様な資金調達・導入スキームを検討・活用しました。

二つ目の課題は、サプライチェーン全体、特にスコープ3の排出量算定と削減推進の難しさです。膨大な数のサプライヤーからデータを収集し、正確に算定することは非常に複雑でした。また、サプライヤーに対してエネルギー効率化や再生可能エネルギー導入を直接強制することは難しいため、協力をいかに得るかが鍵となりました。この課題に対しては、まず主要なサプライヤーから優先的に取り組みを開始し、データ収集ツールの提供や研修、個別相談会などを実施することで、サプライヤー側の負担を軽減し、協力関係を構築していきました。単なる要請ではなく、「共に脱炭素サプライチェーンを構築するパートナー」というスタンスで臨んだことが奏功しました。

三つ目の課題は、組織内の調整と推進体制の構築です。製造、物流、購買、財務など、関係する部門が多岐にわたるため、目標や施策に対する認識のずれが生じたり、責任範囲が不明確になったりする可能性がありました。これを克服するため、「サプライチェーン脱炭素化推進本部」のような部門横断的な強力な推進体制を構築し、定期的な会議や情報共有を徹底しました。経営層が定期的に進捗を確認し、必要な指示を出すことで、各部門の協力体制を強化しました。

成功の要因と学び

大地フード株式会社のエネルギー戦略が一定の成果を上げることができた要因は複数あります。

最も重要な要因は、経営層の強力なコミットメントとリーダーシップです。トップが長期的な視点で脱炭素化と持続可能性を重視し、必要な投資判断や組織体制の構築を迅速に行ったことが、プロジェクトを成功に導く推進力となりました。

次に、全社を巻き込む推進体制と具体的な目標設定です。部門横断的なチームが主体となり、具体的な数値目標と達成期限を設けたことで、各部門が自身の役割を認識し、主体的に取り組む意識が醸成されました。

また、外部パートナーとの戦略的な連携も不可欠でした。自社だけではカバーできない専門知識や技術（再生可能エネルギー導入、EMS等）を持つ外部の事業者やコンサルタント、そして最も重要なステークホルダーであるサプライヤーとの密な連携が、サプライチェーン全体での成果に繋がりました。

この事例から得られる学びとしては、以下の点が挙げられます。

他の企業への示唆・展望

大地フード株式会社の事例は、大手食品メーカーをはじめとする多くの企業にとって、食料問題へのCSRアプローチにおける重要な示唆を与えます。

まず、自社の事業活動がサプライチェーン全体に与える環境負荷（特にエネルギー消費・GHG排出）を正確に把握し、具体的な数値目標を設定することの重要性を示しています。目標設定は、取り組みの方向性を明確にし、社内外の関係者のベクトルを合わせるための第一歩となります。

次に、エネルギー効率改善や再生可能エネルギー導入といった技術的な施策に加え、サプライヤーエンゲージメントの強化という人的・組織的なアプローチが不可欠であることを示唆しています。単に基準を設けるだけでなく、情報提供、技術支援、共同プロジェクトなどを通じて、サプライヤーの自律的な取り組みを促すことが効果的です。

さらに、エネルギーコストの安定化や事業継続性の向上といったビジネス上のメリットを明確にすることで、CSR活動をコストセンターではなく、企業価値向上のための戦略的投資として位置づけられることを示しています。

大地フード株式会社は、今後もサプライチェーン全体の脱炭素化を推進し、より野心的なGHG排出量削減目標（例：ネットゼロ目標の設定）の達成を目指していくとしています。また、農業生産段階における再生可能エネルギー利用の拡大や、AIを活用したエネルギー使用量の予測・最適化など、新たな技術や手法の導入も視野に入れているとのことです。

まとめ

本記事では、大手食品メーカーである大地フード株式会社が取り組む、サプライチェーン全体のエネルギー効率改善と再生可能エネルギー導入事例を詳細にご紹介しました。この取り組みは、気候変動対策というグローバルな課題に対し、事業活動と統合された形で戦略的にアプローチする先進的な事例です。

大地フード株式会社の成功は、経営層の強いリーダーシップ、部門横断的な推進体制、具体的な目標設定、そしてサプライヤーをはじめとする外部パートナーとの協働によって支えられています。エネルギー効率改善と再生可能エネルギー導入は、環境負荷低減に貢献するだけでなく、エネルギーコスト削減、事業継続性の向上、企業イメージ向上といった多面的なメリットをもたらします。

この事例から得られる知見は、食料問題に取り組む他の企業、特にサプライチェーンが広範にわたる食品メーカーにとって、自社のCSR戦略や事業計画を策定する上で、有効な示唆となるはずです。持続可能な食料供給システムの実現に向け、企業がエネルギー戦略をいかに戦略的に位置づけ、実行していくかが、今後ますます重要となるでしょう。