企業の食料問題CSR事例集

大手食品メーカーによるフードバンク・子ども食堂支援：余剰食品活用と地域連携による食料アクセス向上事例

はじめに

本記事では、フロンティア食品株式会社が進める、国内のフードバンクおよび子ども食堂への支援活動を事例としてご紹介します。これは、同社が食品メーカーとして抱える食品ロスという課題に対し、社会貢献の視点からアプローチした顕著なCSR活動の一つです。本事例からは、単なる製品寄贈に留まらない、余剰食品の有効活用、地域社会における食料アクセスの向上、そしてパートナーシップ構築における具体的な知見が得られ、読者である大手食品メーカーのCSRご担当者様にとって、自社の食料問題への取り組みを検討される上での重要な示唆となるでしょう。

取り組みの背景と目的

フロンティア食品株式会社では、「食を通じて人々の健やかな暮らしに貢献する」という企業理念のもと、持続可能な社会の実現に向けたCSR活動を推進しています。その中で、食品メーカーとしての事業特性上、製造・流通段階で発生する食品ロスが重要な経営課題として認識されていました。同時に、国内においても経済格差や孤立などにより、食料を十分に得られない人々が存在するという社会課題への認識が高まっていました。

これらの背景を踏まえ、同社は食品ロス削減と社会貢献を両立させる手段として、余剰食品を有効活用したフードバンクおよび子ども食堂への支援に着目しました。本活動の具体的な目的は以下の通りです。

• 製造・流通段階で発生する、品質に問題はないものの市場に出せない余剰食品の廃棄量を削減すること。
• 生活困窮者や子どもたちなど、食料を必要とする人々へ安全な食品を届け、食料アクセスを向上させること。
• フードバンクや子ども食堂といった地域で活動する団体との連携を強化し、共助のネットワークを構築すること。
• 従業員のCSR意識を高め、社会課題への主体的な関与を促進すること。

具体的な活動内容と実行プロセス

フロンティア食品株式会社のフードバンク・子ども食堂支援は、主に以下の活動内容で構成されています。

1. 余剰食品の特定と提供スキーム構築:

   • 賞味期限が近づいた製品（ただし、フードバンクが定める期限基準を満たすもの）、パッケージ不良や規格外サイズなどで店頭に並べられない製品、製造ラインテスト品などを、品質管理部門と連携して定期的にリストアップする仕組みを構築しました。
   • CSR推進部門が中心となり、製造部門、品質保証部門、物流部門と連携し、寄贈可能な製品情報の集約、保管場所の確保、出荷プロセスの確立を進めました。
   • 初期段階では既存の食品ロス削減目標達成に向けた取り組みの一環として、試験的に数か所のフードバンクへの提供を開始しました。

2. パートナー団体との連携強化:

   • 全国規模で活動するフードバンクネットワークや、地域の子ども食堂支援ネットワークと連携協定を締結しました。
   • CSR推進部門の担当者が定期的にパートナー団体と情報交換を行い、提供可能な製品情報と団体側のニーズ（必要な製品の種類、量、配送方法など）をマッチングさせる調整機能を担いました。
   • 特に子ども食堂に対しては、子ども向け製品（例：お菓子、ジュース、即席スープなど）のニーズが高いことを把握し、製品リスト作成時に反映させました。

3. 物流・配送支援:

   • 自社の既存物流ネットワークを活用し、主要な拠点からパートナー団体へ定期的に製品を配送する体制を整備しました。これにより、団体側の物流コスト負担を軽減しました。
   • 自社便での配送が困難な地域については、提携する物流会社のCSR活動として協力を仰ぐなど、多様な連携方法を模索しました。

4. 従業員ボランティア活動:

   • 従業員がフードバンクでの食品の仕分け、梱包、発送準備作業に参加するボランティアプログラムを導入しました。
   • 子ども食堂での調理、配膳、子どもたちの見守り活動などへの参加機会も提供しました。
   • これらの活動は、社内ポータルサイトやCSRレポートで積極的に報告し、従業員の参加を奨励しました。

活動の実行プロセスとしては、まずパイロットプログラムとして一部の工場と近隣のフードバンクで開始し、課題を洗い出しながら徐々に規模を拡大していきました。各部門からの代表者を集めたプロジェクトチームを組成し、週次の定例会議で進捗確認と課題解決に向けた議論を行いました。外部パートナーとの連携においては、単なる寄贈関係に留まらず、互いの課題やリソースを共有し、共に解決策を模索する対等なパートナーシップ構築を重視しました。

成果と効果測定

本活動を通じて、フロンティア食品株式会社は以下のような成果を得ています。

• 定量的な成果:

  • 2023年度には、約150トンの余剰食品をフードバンクおよび子ども食堂に寄贈しました。これは、前年度比で20%の増加であり、同年度の総食品ロス量の約5%に相当します。
  • 全国の約80団体（フードバンク、子ども食堂ネットワーク含む）と連携し、間接的に数万人の食料アクセス向上に貢献できたと推計しています。
  • 従業員ボランティアには年間延べ500名が参加し、CSR活動への従業員エンゲージメント向上に寄与しました。
  • 寄贈品の廃棄回避によるコスト削減効果（廃棄処理費用の削減）も一部で確認されています。

• 定性的な成果:

  • 支援団体からは、製品提供だけでなく物流支援があることへの高い評価と感謝の声が寄せられています。「フロンティア食品さんの支援のおかげで、これまで手が届かなかった層にも安定的に食品を届けられるようになった」というコメントも複数聞かれました。
  • 従業員からは、「自分の仕事が社会貢献に繋がっていることを実感できた」「食品ロス問題への意識が高まった」といった声が多数寄せられ、士気向上に繋がっています。
  • 地域社会やメディアからの注目度が高まり、企業の社会貢献活動に対する肯定的な評価やブランドイメージの向上に寄与しています。
  • 本活動を通じて得られた余剰食品発生に関するデータは、今後の製造・在庫管理プロセスの改善検討にも活用されています。

成果の測定においては、寄贈量や連携団体数、従業員参加者数といった定量データはCSR推進部門が集約し、年次のCSRレポートで公開しています。定性的な成果については、パートナー団体へのヒアリング調査や従業員アンケート、メディア露出状況などを通じて把握・評価しています。

直面した課題と克服策

本活動の推進過程では、いくつかの課題に直面しました。

• 社内調整の難しさ: 特に製造部門や物流部門にとっては、通常の業務フロー外での対応（寄贈品の準備、配送ルートの調整など）が発生するため、当初は協力体制を構築するのに時間と労力を要しました。
  • 克服策: プロジェクトチームに各部門のキーパーソンを含め、活動の目的と社会的な意義、そして本活動が長期的に自社の食品ロス削減目標やブランドイメージ向上にも繋がることを粘り強く説明しました。また、現場の負担を軽減するための具体的な改善策（例：寄贈品リストの早期共有、専用伝票の導入など）を共に検討・実行しました。
• 寄贈品とニーズのマッチング: 提供可能な製品の種類や量が、支援団体のその時々のニーズと完全に一致しない場合がありました。特に特定の製品（例：アレルギー対応食、離乳食）へのニーズに応えるのが難しいケースがありました。
  • 克服策: パートナー団体との間で、より詳細かつ頻繁にニーズ情報を共有するためのオンラインプラットフォームを導入しました。また、寄贈する製品リストを事前に提示し、団体側が受け入れ可能か判断できる猶予期間を設けるようにしました。さらに、ニーズの高い特定製品については、製品開発部門と連携し、あえて少量生産して寄贈する可能性についても検討を開始しました。
• 物流コストの課題: 製品自体は無償提供ですが、配送にはコストが発生します。活動規模の拡大に伴い、この物流コストが課題となりました。
  • 克服策: 自社便の空きスペース・ルートを最大限に活用する物流最適化を図りました。また、複数団体への共同配送を推進したり、地域によっては提携物流会社や他の企業のCSR物流との連携を模索したりしています。将来的には、本活動に賛同する物流パートナーのネットワーク構築を目指しています。

成功の要因と学び

本事例が一定の成果を上げることができた主な要因は以下の通りです。

• 経営層の強いコミットメント: CSR活動が単なる慈善事業ではなく、企業価値向上に繋がる重要な経営戦略の一つであるとの認識が経営層にあり、リソース投入への理解があったことが最大の要因です。
• 部門横断的な推進体制: CSR推進部門がハブとなり、製造、品質保証、物流、営業など関連する複数の部門が一体となって課題解決に取り組む体制が構築されたことが、スムーズなオペレーション実現に不可欠でした。
• 外部パートナーとの信頼関係構築: フードバンクや子ども食堂といった最前線で活動する団体との間で、単なる支援先・支援元の関係ではなく、社会課題解決に向けた対等なパートナーシップを築き、密なコミュニケーションを行ったことが、ニーズとシーズのマッチング精度向上や課題の早期発見・解決に繋がりました。
• 従業員の参画促進: ボランティアプログラムなどを通じて従業員が活動に直接関わる機会を提供したことが、活動への共感と主体的な参加意識を高め、社内におけるCSR活動への理解浸透を促進しました。

本事例から得られる学びとして、食品メーカーの食料問題への貢献は、単に製品を寄贈するだけでなく、自社の持つアセット（製品、物流網、専門知識など）を戦略的に活用し、外部パートナーと密接に連携することで、より大きな社会的なインパクトを生み出せるということです。また、課題は必ず発生するものの、関係者間でオープンに議論し、試行錯誤しながら改善を続けるPDCAサイクルが重要であるという点も挙げられます。

他の企業への示唆・展望

フロンティア食品株式会社の事例は、他の大手食品メーカーのCSRご担当者様にとって、以下の点で示唆に富むと考えられます。

• 自社アセットの再認識: 自社が持つ製品、物流網、技術、従業員のスキルなどが、食料問題解決においてどのように貢献できるかを改めて見つめ直すきっかけとなり得ます。特に物流網の活用は、支援団体側の負担軽減に大きく貢献できる可能性を秘めています。
• パートナーシップの重要性: フードバンクや子ども食堂は、地域の実情やニーズを最もよく把握しています。これらの団体と密接に連携し、共に課題解決に取り組む姿勢が成功の鍵となります。複数の団体を束ねるネットワーク団体との連携も有効です。
• 社内連携と従業員エンゲージメント: CSR活動を一部門の活動に終わらせず、全社的な取り組みとして推進するためには、経営層のコミットメントのもと、部門横断的な体制を構築し、従業員一人ひとりが「自分ごと」として捉えられるような機会を提供することが重要です。

フロンティア食品株式会社では、今後も本活動を継続・拡大していく計画です。具体的には、寄贈品目の栄養バランスを考慮した提供、食育プログラムと連携した子ども食堂支援、そして災害発生時における食料支援での連携強化などを展望しています。また、本活動で得られた知見を活かし、食品ロスをさらに抑制するための製造・流通プロセスの抜本的な見直しにも繋げていく方針です。

まとめ

フロンティア食品株式会社のフードバンク・子ども食堂支援事例は、大手食品メーカーが食品ロスという事業課題と社会課題を同時に解決するための具体的なアプローチを示しています。余剰食品の戦略的な活用、自社アセットを活かした物流支援、そして何よりも重要な外部パートナーとの密接な連携が、本活動の成功を支えています。この事例から得られる知見は、他の食品メーカーが持続可能な社会の実現に向けた食料問題への貢献策を検討する上で、貴重な参考となるでしょう。社会全体で食料問題を解決していくためには、企業の持つ力と市民社会の力が連携することが不可欠であり、フロンティア食品株式会社の取り組みは、その可能性を示す一例と言えます。