企業の食料問題CSR事例集

大手食品メーカーの家庭向け食品ロス削減啓発プログラム事例:消費者行動変容を促す共創型アプローチ

Tags: 食品ロス, CSR, 消費者啓発, 行動変容, 共創, 食品メーカー, 家庭

はじめに

本記事では、日本の大手食品メーカーであるABC食品株式会社が取り組む、家庭における食品ロス削減のための消費者向け啓発プログラム「フードロスゼロチャレンジ」の事例をご紹介します。家庭からの食品ロスは、日本全体の食品ロス量の中でも大きな割合を占めており、その削減は重要な社会課題となっています。

本事例は、単なる情報提供に留まらず、消費者一人ひとりの行動変容を促し、企業と消費者が共に課題解決を目指す「共創」のアプローチを取り入れている点が注目されます。大手食品メーカーのCSRご担当者様にとって、消費者接点を活かした食料問題への貢献策や、効果的な啓発活動を企画する上での具体的な示唆や学びが得られるものと考えられます。

取り組みの背景と目的

ABC食品株式会社は、「豊かな食を通じて社会に貢献する」という企業理念を掲げています。その中で、持続可能な社会の実現には、食料生産から消費、廃棄に至るフードサプライチェーン全体での課題解決が不可欠であると認識していました。特に、自社商品の消費者が主体となる家庭での食品ロスは、環境負荷の増大や食資源の無駄遣いに直結する問題でありながら、その実態把握や効果的な対策が難しいという課題がありました。

こうした背景から、同社は企業としての責任を果たすとともに、消費者と共に持続可能な消費行動を考える機会を創出することを目的として、「フードロスゼロチャレンジ」プログラムを立ち上げました。このプログラムの具体的な目的は以下の通りです。

具体的な活動内容と実行プロセス

「フードロスゼロチャレンジ」プログラムは、主に以下の3つの柱で構成されています。

  1. オンライン啓発コンテンツの提供:
    • ウェブサイト上に、食品ロスの現状、削減のメリット、食材の適切な保存方法、使い切りレシピ、計画的な買い物術などの情報を掲載しました。コンテンツは、動画、イラスト、専門家による解説記事など、多様な形式で提供し、飽きさせない工夫を凝らしました。
    • 特に、人気料理研究家や栄養士と連携し、実践的で誰もが取り組みやすいレシピやテクニックを紹介しました。
  2. 参加型オンラインイベントとコミュニティ運営:
    • 食品ロス削減をテーマにしたオンラインセミナーやワークショップを定期的に開催しました。参加者同士が情報交換できるブレイクアウトルームを設けたり、質疑応答の時間を十分に確保するなど、双方向のコミュニケーションを重視しました。
    • プログラム専用のオンラインコミュニティ(SNSグループ)を開設し、参加者が日々の取り組みや成功事例、悩みなどを共有できる場を提供しました。企業側からも定期的に有益な情報や励ましのメッセージを発信し、参加者のモチベーション維持を図りました。
  3. 食品ロス削減チャレンジと成果報告:
    • 一定期間(例:1ヶ月間)、「自宅での食品ロスを半減する」といった具体的な目標を設定し、参加者が自身の取り組みを記録・報告するオンラインチャレンジを実施しました。
    • チャレンジ参加者には、食品ロス削減に役立つオリジナルグッズを提供したり、成功事例を発表する機会を設けるなど、インセンティブと認知を提供しました。
    • チャレンジを通じて得られたデータ(食品ロス量の変化、取り組み内容など)は匿名で収集し、プログラムの効果測定に活用しました。

実行プロセスとしては、まずCSR推進部が中心となり、プログラムの企画立案を行いました。ターゲット顧客のニーズを把握するため、事前に消費者アンケートやグループインタビューを実施しました。次に、マーケティング部と連携し、自社ウェブサイトやSNS、メールマガジンなどを活用したプロモーションを展開し、参加者を募集しました。コンテンツ制作においては、広報部や外部のコンテンツ制作会社、専門家と協力しました。オンラインイベントやコミュニティ運営には、専門のプラットフォームを活用し、スムーズな運営体制を構築しました。プログラム期間中は、定期的に参加者からのフィードバックを収集し、改善を継続しました。

組織内の連携としては、CSR推進部が全体統括を行い、マーケティング部が消費者へのリーチとコミュニケーション、広報部がメディア連携、商品開発部がレシピ開発や商品との連携、研究開発部が保存技術の情報提供などで協力しました。外部パートナーとしては、食品ロス問題に取り組むNPO法人に監修や講師として協力いただき、効果測定には大学の研究機関と連携しました。

成果と効果測定

「フードロスゼロチャレンジ」プログラムは、開始から1年間で累計1万人以上の消費者が参加登録するという、想定を上回る反響を得ました。オンラインイベントへの参加者は延べ5千人、オンラインコミュニティには3千人以上のメンバーが集まりました。

成果測定として、チャレンジ参加者の中から無作為抽出した500名を対象に、プログラム参加前後の食品ロス量の変化に関するアンケート調査を実施しました。その結果、回答者の約70%が「食品ロスが減った」と回答し、特に「野菜の廃棄量が減った」「使い忘れによる廃棄がなくなった」といった具体的な行動変化が見られました。定量的な推計では、参加者一人あたり月間約500グラムの食品ロス削減に貢献した可能性が示されました(ただし、これは自己申告に基づくデータであり、厳密な測定には課題が残ります)。

定性的な効果としては、参加者からのポジティブな声が多く寄せられました。「食品ロスを減らす意識が高まった」「今まで知らなかった保存方法やレシピを知ることができた」「同じように取り組む仲間ができてモチベーションが上がった」といったコメントが多く見られました。また、プログラムがメディアに取り上げられる機会が増え、企業の社会貢献活動への認知度向上や、ブランドイメージの向上にも繋がりました。オンラインコミュニティでの活発な情報交換は、企業側にとって消費者のリアルな声やニーズを把握する貴重な機会となり、今後の商品開発やCSR活動のヒントを得ることができました。

効果測定の手法としては、参加者アンケート、オンラインコミュニティでの投稿分析、ウェブサイトへのアクセス解析、イベント参加者数などが用いられました。家庭での食品ロス量を直接かつ厳密に測定することの難しさから、主に自己申告や行動変容に関する定性・定量データを組み合わせる形で効果を評価しました。

直面した課題と克服策

本プログラムの実行において、いくつかの課題に直面しました。

第一に、参加者のエンゲージメント維持と継続的な行動変容の促進です。プログラム開始当初は多くの関心を集めましたが、時間が経つにつれて参加者の活動が鈍化する傾向が見られました。これに対しては、定期的なオンラインイベントの開催頻度を増やしたり、チャレンジ期間を短く区切って達成感を感じやすくしたり、コミュニティ内で表彰制度を設けるなど、継続的に関心を持ってもらうための施策を強化しました。

第二に、家庭での食品ロス量を正確に測定し、プログラムの効果を厳密に評価することの難しさです。自己申告によるデータには限界があり、客観的な効果を証明することが課題でした。克服策として、特定の参加者(モニター)に対して、実際に廃棄した食品の種類や量を記録してもらう詳細な調査の実施を検討したり、IoT技術を活用した食品ロス測定デバイスとの連携可能性を探るなどのアプローチを試みました。しかし、現時点では広範な参加者への適用はコストや手間の面で難しい状況です。

第三に、多様なライフスタイルの消費者層全体にプログラムを普及させることの難しさです。特にデジタルデバイスの利用に慣れていない層や、日中の参加が難しい勤労者層へのリーチが課題となりました。これに対しては、オフラインでの啓発イベントを地域と連携して開催したり、短時間で視聴できる動画コンテンツを増やしたり、いつでもアクセス可能なオンデマンド形式のコンテンツを充実させるなどの改善を行いました。

成功の要因と学び

「フードロスゼロチャレンジ」が一定の成果を上げることができた要因として、以下の点が挙げられます。

この事例から得られる学びとしては、家庭での食品ロス削減のような個人の行動変容を伴う課題解決には、単なる情報提供だけでなく、参加型・体験型のコンテンツ、継続的なサポート、そして課題を共有し共に取り組む仲間との繋がりを提供することが効果的であるということです。また、成果測定には限界があることを認識しつつも、複数の手法を組み合わせることで、活動の意義や影響を多角的に捉える努力が重要であることも学びました。

他の企業への示唆・展望

ABC食品株式会社の「フードロスゼロチャレンジ」事例は、他の大手食品メーカーのCSRご担当者様にとって、家庭における食料問題へのアプローチを検討する上で多くの示唆を提供します。

まず、自社の持つ顧客基盤やブランド力を活かした消費者参加型のプログラムは、社会課題解決への貢献と企業価値向上を両立させる有力な手段となり得ます。特に、自社の商品に関連する食料問題(例:米穀を扱う企業であればお米のロス削減、野菜加工品を扱う企業であれば野菜の保存法など)に焦点を当てることで、専門性や説得力を持たせやすくなります。

また、本事例の共創やコミュニティ形成といったアプローチは、単発のキャンペーンに終わらず、持続的な行動変容を促すための有効なモデルとなり得ます。NPOや自治体、専門家といった外部パートナーとの連携は、プログラムの質を高め、より広範な社会への影響力を生み出す上で不可欠です。

今後の展望として、ABC食品株式会社は「フードロスゼロチャレンジ」をさらに拡大し、参加者層の多様化や、他の食料問題(例:栄養バランス、食品安全など)との連携を視野に入れています。また、テクノロジー(AIによる献立提案、IoT冷蔵庫との連携など)を活用した、よりパーソナライズされた食品ロス削減サポートの提供も検討課題としています。最終的には、このプログラムを通じて得られた知見やネットワークを、新たなビジネス機会の創出や、より広範なフードシステム変革に繋げていくことを目指しています。

まとめ

ABC食品株式会社の「フードロスゼロチャレンジ」は、家庭における食品ロス削減という身近でありながら根深い社会課題に対し、企業が消費者と手を取り合って解決を目指すCSR活動の好事例と言えます。オンラインコンテンツ、参加型イベント、コミュニティ運営を組み合わせた多角的なアプローチと、消費者一人ひとりの行動変容に焦点を当てた「共創」の姿勢が、多くの参加者を引きつけ、一定の成果を上げることができました。

本事例は、大手食品メーカーが消費者との関係性を深化させながら、食料問題解決に貢献するための具体的な手法を示しています。特に、行動変容を促すための工夫、効果測定の難しさへの対応、そして外部連携の重要性は、今後のCSR活動を企画・推進する上で重要な学びとなるでしょう。自社の強みを活かし、社会のニーズに応える取り組みは、持続可能な社会の実現に貢献すると同時に、企業のレジリエンスと競争力を高めることに繋がります。